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彼のために、わたしができること PAGE8

last update 最終更新日: 2025-02-25 09:47:02

   * * * *

 ――事前に訪問のアポをとっていたためか、聞き取り調査は割とスムーズに進んだ。同僚だった貢を連れて行ったから、みなさんも話しやすかったのかもしれない(というか、彼がクルマを出してくれないと、そんなにあちこちには移動できないのだけれど)。

 やっぱり精神的に参っている人たちがほとんどで、まだ次の就職先が見つかっていない、もしくは非正規雇用でしか働けなくなったという人も多かった。そういう人たちに「もしこの問題が解決したら、ウチの会社に戻って来ませんか?」と声をかけてみると、「前向きに考えてみる」と色よい返事も多くもらえたので、わたしもこの件の解決に俄然(がぜん)ファイトが湧いた。

「――あー、お腹すいた。今日はハンバーガーが食べたい気分~」

 とある平日の、会社からの帰り道。わたしはレクサスの助手席で貢に夕食のメニューをリクエストした。もちろん彼におごらせる気はさらさらなくて、どのお店に行きたいか言っただけのことだ。

 ちなみに家庭訪問を行っていた期間は帰りだけ会社に寄らず、彼のクルマで直帰していた。その間に溜まった決裁などの仕事は母にお願いして、わたし個人のノートPCに転送してもらって家で処理していた。

 とはいえ、オフィス内でデスクワークをしている時より、外回りの仕事(これは仕事にカウントしてよかったんだろうか?)をしている時の方がエネルギーを消耗するので、帰りには二人とも毎日お腹がペコペコになっていた。

 夕食のメニューは毎日その日の気分で決めていて、ガッツリ焼肉の日もあれば回転ずしの日もあったり、ファミレスで済ませることもあった。

「ハンバーガーですか? ……えーと、このあたりに美味しい店なんてあったかな……」

 彼は車載ホルダーにセットしたスマホで、ハンバーガーのお店を検索し始めたけれど。前方には超有名なファストフードチェーンの黄色い「M」の看板が見えていた。

「そんなにいいお店じゃなくても、あれでいいよ」

「……えっ? あそこでいいんですか?」

「うん」

 ――そんなわけで、その日はお互いに好きなバーガーとフライドポテトのセットで夕食を済ませて帰宅。そんなこともあった。――そういえば、ワサビとカラシ以外に炭酸飲料も苦手なんだと彼に打ち明けたのも、確かこの日だったな……。
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    「僕が個人的に、恋愛相談に乗って頂いていたので……」「……ああ、そっか。彼女とは大学の先輩後輩だって言ってたよね」 彼が個人的に誰と話そうと、それは自由だ。プライベートにまで口を出す権利はわたしにもないから。でも、秘書としてその口の軽さはどうなのよ、と思ってしまう。……まぁ、職務上の守秘義務を破っているわけじゃないからよしとするか。   * * * * ――彼が予約してくれたお店は、オシャレな洋食屋さんだった。それでいてお財布にも優しい低価格で、これなら彼も支払いに困らないだろうなとわたしもホッとした。「――食事の途中ですが、これを。絢乃さん、改めてお誕生日おめでとうございます」 そう言って彼がビジネスバッグから取り出したのは、パールピンクの包装紙でキレイにラッピングされた細長い箱だった。大きさは十五センチくらいだろうか。光沢のあるワインレッドのリボンがかけられていた。「ありがとう! これ開けていい?」「ええ、どうぞ」 待ってました、とばかりにわたしは丁寧にリボンの結び目を解き、包装紙をはがしていった。すると、そこから出てきたのは上品なピンク色のベルベット地のケースで、フタを開けると……。「わぁ……、ネックレスだ。可愛い! 貢、ありがとう!」 わたしはキラキラした銀色のネックレスを手に取り、目の前にかざしてみた。チェーンもチャームもシルバーではなく、輝きからしてプラチナ。チャームのデザインはシンプルだけれど可愛いオープンハートで、高級ブランドではないにしてもそこそこ値の張るものだと分かった。「喜んで頂けてよかったです。……本当は指輪にしようかと思ったんですけど、まだ付き合い始めたばかりなのでちょっと重いかな……と。何と言いますか、束縛しているような気がして」「指輪ねぇ……。確かにちょっと早いかな。――あ、ねぇねぇ。ちょっと貢にお願いがあるんだけど」「はぁ、何ですか?」「これ、今ここで、貴方に着けてもらいたいの。いい……かな?」 わたしは上目づかいになり(計算でも媚びているわけでもない)、彼にお願いしてみた。もちろんその意味は、わたしの首からかけてほしいという方の意味だ。「え、僕にですか? こういう頼まれごとは初めてなので、うまくできるかどうか……」「うん、大丈夫。じゃあお願いします」 わたしはもう一度彼に小さく頭を下げて、邪魔

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    「……はい、できました。こんな感じでどうですか?」「ありがとう! どれどれ……、うん。いいじゃん!」 バッグから取り出したコンパクトを開いて出来映えを確かめると、スーツ姿のシンプルなVネックのインナー、その胸元に銀色のチャームがすっきり収まっていた。「わたし、このネックレス、一生の宝物にするね」「そんな大げさな……」 彼は呆れぎみに笑ったけれど、わたしは至って大真面目だった。「――貢、今日はごちそうさま。いい誕生日になったよ。ホントにありがとね」 彼はこの時の夕食を、本当に奢(おご)ってくれた。わたしが「割り勘にしよう」と言っても譲らなかったので、最終的に折れたのだ。「今度お礼しないとね。――あ、そうだ。貢の誕生日って確か来月だったよね?」「ええ、十日です」「十日は……えっと、平日か。じゃあ大型連休の間にお祝いしようよ。貴方の部屋で、わたしがお料理作って。どうせなら一緒にプレゼントとケーキも買いに行く? わたし、それまでに自分名義のクレジットカード作っとくから」「ええっ!? ぼ、僕の部屋で……ですか!?」 わたしの何気ない提案に、彼は激しく取り乱した。「うん、そう言ったけど。……どうしたの?」「……そろそろ次のステップか」「ん? 何か言った?」「いえ、何でもないです」「じゃあ、欲しいもの、考えておいてね。値段は気にしなくていいから」「分かりました。絢乃さんの財力があれば、何でも気前よく買って頂けそうなのでちょっと怖いですが。そうか、クレジットカードって満十八歳から申請できるんでしたよね」「……まあねぇ♪」 彼はわたしの経済力に舌を巻いた。何せわたしの役員報酬は、月に五千万円(そのうち二千万円は母に渡しているけれど)。それプラス、何十億円という父の遺産もあるのだから。「あと、お料理なんだけど。何食べたい?」「そうだなぁ……、カレーですかね。色気ないかもしれませんけど」「ううん、そんなことないよ。じゃあカレーね。お肉ゴロゴロのビーフカレーにしよう♪」 その後も車内では彼の誕生日についての話題で盛り上がったけれど、わたしは彼がポツリと漏らした「次のステップ」という言葉が気になって仕方がなかった。

    最終更新日 : 2025-02-25
  • トップシークレット☆ ~お嬢さま会長は新米秘書に初恋をささげる~   次のステップって……? PAGE4

     ――その翌日。わたしは仕事のお休みをもらって(学校は元々春休みだったし)、里歩と二人で渋谷までショッピングに来ていた。「おめでとう」の言葉は前日の夜にLINEでもらっていたけれど、その時に「絢乃の誕プレ、どうせなら一緒に買いに行こうよ」ということになり、母に出社を代わってもらって出かけてきたのである。「――あ、春の新作ルージュもう発売されてんじゃん♪ これって絢乃がCMに出てたヤツだよね? あの寸止めチューの」 デパートのコスメ売り場で、〈Sコスメティックス〉のブースの前を通りかかった里歩が口紅を一本手に取ってわたしに問うてきた。「……そうだけど。イヤな言い方しないでよね」 わたしは露骨に顔をしかめた。 貢と付き合い始める前、もしかしたらあのCMでファーストキスを奪われていたかもしれない相手。その小坂リョウジさんはあれからわたしにアクションを起こしてこなくなった。諦めてくれる気になったのか、それとも嵐の前の静けさなのか……。もし後者だったらちょっと不気味だ。 ちなみに、里歩は小坂さんがわたしに言い寄ってきたと聞いて彼のファンをやめた。女性に対して節操のない彼に幻滅したのかもしれない。「じゃあこれ、買わないの? 小坂リョウジのことはアレだけど、口紅に罪はないでしょうよ」「そうなんだけど、それを塗るたびに小坂さんとキスしてるような気持ちになるのがイヤなの。何だか浮気してるみたいで、貢に申し訳ないっていうか」 もちろんわたしは貢ひとすじだし、浮気心なんてかけらもないけど。わたしが気にしすぎているだけかもしれないけれど……。「それってアンタの考えすぎじゃないの? ……まぁいいや。どうしてもイヤだって言うなら別のにするかー」「ごめんねー。せっかく選んでくれようとしてたのに」「いいってことよ。んじゃあー……、こっちにしよっか。桜色リップグロスとチーク。あとアイシャドウとクッションファンデもね」「……あ、待って! やっぱり口紅も買う」「ハイハイ」 わたしの気まぐれにも、気にするなとばかりに肩をすくめ、次々にコスメを選んでくれた親友に、わたしは「ゴメン、ありがとね」とお礼を言った。「――ねえ里歩。『次のステップ』ってどういう意味だと思う?」 渋谷センター街のバーガーショップで一休みしていた時、わたしはオレンジジュースをストローですすってから里歩

    最終更新日 : 2025-02-25

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  • トップシークレット☆ ~お嬢さま会長は新米秘書に初恋をささげる~   エピローグ PAGE3

    「貴方は出会ってから、わたしに色んなことを教えてくれたよね。パパの余命を前向きに捉えることとか、悲しい時には思いっきり泣いていいんだってこと、緊張した時のおまじない、それから」「えっ、そんなにありましたっけ?」 彼はここで驚いたけれど、わたしがいちばん伝えたい大事なことはこの先だ。「うん。……それから、恋をした時の喜びとか苦しさも、わたしは貴方から教えてもらったの。だから、この先もずっと貴方に恋をし続けていくよ」「はい。僕も同じ気持ちです。あなたに一生ついて行きます」「だから、それって花嫁のセリフだってば」 わたしはまた笑った。「――絢乃、桐島くん。式場のスタッフが呼んでるわよ。『そろそろフォトスタジオにお越し下さい』って」 控室のドアをノックする音がして、オシャレなパンツスーツを着こなした母が一人の中年男性を伴って入ってきた。「はい、今行きます! ――絢乃さん、では僕は先に行っていますね。フォトスタジオでお待ちしています」「うん、分かった。また後でね」 控室を後にする彼を振り返ったわたしは、母と一緒に立っている人物に目をみはった。 父に顔はよく似ているけれど、父より少し年上の優しそうな紳士――。「やぁ、絢乃ちゃん。久しぶりだね。結婚おめでとう」「聡一(そういち)伯父さま……」 それは、アメリカから帰国した父方の伯父、井上聡一だった。伯父にも招待状を送っていて、出席の返事はもらっていたけれど、どうして母と一緒に控室を訪ねてきたのかは分からなかった。「今日は、来てくれてありがとう。……でも、どうしてわざわざ控室まで?」「加奈子さんに頼まれたんだ。源一の代わりに、絢乃ちゃんと一緒にバージンロードを歩いてほしい、って。私は父親じゃないが、君の親族であることに変わりはないからね」「…………伯父さま、ありがとう……。パパもきっと喜んでくれてるよ……」 伯父の優しさが心に沁みて、わたしは感激のあまり泣き出してしまった。「あらあら! 絢乃、泣かないで! せっかくキレイにメイクしてもらったのに崩れちゃうわ」「うん、……そうだね。こんな顔で行ったら貢がビックリしちゃうよね」 慌てる母に、わたしは泣き笑いの顔で頷いた。 その後母に呼ばれたヘアメイク担当のスタッフさんにお化粧を直してもらい、わたしはウェディングプランナーの女性に先導され、母

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  • トップシークレット☆ ~お嬢さま会長は新米秘書に初恋をささげる~   エピローグ PAGE1

     ――こうして、わたしと貢の関係は恋人同士から婚約関係となった。ちなみに、あの騒動のおかげでわたしたちの関係は世間的に公になったのだけれど、これは喜ぶべきだろうか? 真弥さんはあの日撮影した映像を、自分のアカウントでもXにアップしていて、その投稿は見る間に拡散したらしい。〈彼氏登場! いきなりハイキックとかカッコよすぎww〉〈彼氏、ヒーローすぎてヤバい〉 などなど、称賛のコメントと共に思いっきりバズっていた。  去年のクリスマスイブは彼と二人きりで過ごし、婚約指輪はそこでクリスマスプレゼントとして彼からもらった。小粒のダイヤモンドがはめ込まれたシンプルなプラチナリングで、多分価格もなかなかのものだったはず。彼の男気を感じて嬉しかった。 誕生日にもらったネックレスとともに、この指輪もわたしの一生の宝物になるだろう。 その夜は彼のアパートに泊まり、彼の小さなベッドの上で一緒に朝を迎えた。わたしの後から起きてきた彼と目を合せるのが照れ臭かったことが忘れられない。でも、それが結婚生活のリハーサルみたいに思えて、心躍ったのも確かだ。 三月の卒業式には、母と一緒に貢も出席してくれたので驚いた。母の話によれば、その日は一日会社そのものをお休みにしたんだとか。会長の新たな出発の日だから、社員一丸となってお祝いするように、と。「ママ……、何もそこまでしなくても」と呆れたのを憶えている。 四月最初の日曜日、両家顔合わせの意味も込めて我が家で食事会をした。料理は専属コックさんと母、わたしと史子さんで腕によりをかけて作り、デザートのイチゴのシフォンケーキもわたしが作った。桐島さんご一家のみなさんも「美味しい」と喜んで、テーブルの上にところ狭しと並べられた料理を平らげて下さった。 そこで、わたしと貢は驚くべき事実を知った。なんと、悠さんがお付き合いしていた女性と授かり婚をしたというのだ! 顔合わせの席にはその奥さまもお見えになっていて、お名前は栞(しおり)さんというらしい。年齢は貢の二歳上で、悠さんが店長を務められているお店の常連客だったそう。そこから恋が始まり、お二人は結ばれたというわけだった。……ただ、順番が違うんじゃないだろうかと思うのは考え方が古いのかな……。 そこから彼が我が家で同居することになり、二ヶ月が経ち――。 本日、六月吉日。愛する人と二人で選

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    「――絢乃さん、僕、覚悟を決めました。あなたのお婿さんになりたいです。僕と結婚して下さい。お父さまの一周忌が済んで、絢乃さんが無事に高校を卒業して、そうしたら。……で、どうでしょうか」「はい。喜んでお受けします!」 彼からの渾身のプロポーズに、わたしは喜び全開で頷いた。エンゲージリングはまだなかったけれど、気持ちのうえではもう、二人の結婚の意思は確固たるものになっていた。 思えば初めてわたしの気持ちを彼に伝えた時、子供っぽい告白になってしまった。でも今なら、彼にとっておきの五文字で想いを伝えられるだろうか。あの時から少し大人になったわたしなら……。「貢、……愛してる」「僕も愛してます、絢乃さん」 わたしたちは熱いハグの後、長いキスを交わした。「――ところで、絢乃さんは高校卒業後の進路、どうされるんですか? 僕、まだ教えて頂いてないんですけど」 帰り道、彼が器用にハンドルを切りながらわたしに訊ねた。……おいおい、今ごろかい。「わたしね、大学には進学せずに経営に専念しようと思ってるの。やっぱり好きなんだよね、会長の仕事とか会社が」「……なるほど」「ママは最初、大学に進んでもいいんじゃないか、って言ってくれたんだけど。最後には折れてくれたの。わたし、これまでよりもっともーっと会社に関わっていきたいから」「加奈子さん、絢乃さんに甘々ですもんね」「うん、まぁね。ちなみに、里歩は大学の教職課程取って、高校の体育教師目指すんだって。唯ちゃんはプロのアニメーターを志して、専門学校に進むらしいよ」 卒業後の進路はバラバラでも、わたしと里歩、唯ちゃんとの友情はこれから先も変わらない。きっと。

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    「――改めて、貴方には心配をおかけしました」 わたしはいつもの指定席である助手席ではなく、後部座席で彼に深々と頭を下げた。「ホントですよ。あれほど無茶なことはするなと言ったのに。ヘタをすれば、絢乃さん、アイツにケガさせられてたかもしれないんですからね?」 彼はまだご立腹のようだった。でも、それはわたしのことが本当に心配だったからにほかならない。「だーい丈夫だって。そのためにあの頼もしいお二人にも協力してもらったわけだし。いざとなったらボディーガードをしてもらうつもりで――。まあ、結局は貴方に助けられたわけだけど」「イヤです」「…………は?」 彼に唐突に話を遮られ、わたしはポカンとなった。「イヤ」って何が?「あなたが他の人に守られるなんて、僕はイヤなんです。あなたを守るのは僕じゃないとダメなんです。……すみません、ダダっ子みたいなことを言って」「ううん、別にいいよ。貴方の気持ち、すごく嬉しいから」 むしろ、ダダっ子みたいな貴方が可愛くて愛おしくて仕方がないんだよ、とわたしは目を細めた。「でも、今日ほどわたしは貴方に守られてるんだなって思ったことはなかったかも。ホントにありがと」 わたしはいつも、自分が彼を守っているんだと思っていた。でも、時々こうやって自分を顧(かえり)みずに無茶なことをしでかすわたしを助けてくれているのは貢だった。それは秘書としても、彼氏としても。「わたし、いつもこうやって貴方のことを助けてるつもりでも、結局のところは貴方に助けられてるんだね」 父の病気が分かってショックを受けた時、父が亡くなった時、親族から心ない罵声を浴びせられた時。それから会長に就任した時もそうだった。彼はいつもさりげなく、わたしの心の支えとなってくれていたのだ。彼の優しくて温かい言葉に、わたしはどれだけ救われてきたか分からない。「今ごろ気づかれたんですか? 僕の大切さが」「……うん、ごめん。でもありがと」「それにしても、僕を守るなら他に方法くらいあったでしょう? あえて僕と離れて、中傷の目を遠ざけるとか」「それは、わたしがイヤだったの。たとえ貴方を守るためでも、貴方と離れるなんてダメだと思った。だったら、一緒にいながら貴方を守る方法を取った方がいい、って。……まぁ、その分お金はかかったし、ちょっと危ない橋も渡っちゃったけど」 傍から見れば

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     ――作戦は無事成功したものの、わたしは何だかワケが分からなかった。わたしもまたドッキリにかけられたような気持ち、というのか……。「……どうして貢がここに? 打ち合わせでは、あの場で登場するのは内田さんだったはずじゃ」「ああ、内田さんから連絡を頂いたんです。今日、絢乃さんが危ない目に遭うかもしれないから、新宿駅前に来てほしい、って」「相手が激昂してる時に、見ず知らずの男が現れたら事態が余計に悪化するかもしれないと思ってな。ここは格闘技を習得した彼氏に花を持たせてやった方がいいかな、って」「内田さん、そういうことは事前に教えておいてくれないと。わたしをドッキリにかけてどうするんですか!」 そういう問題じゃない気もしたけれど、わたしはとにかく一言抗議しないと気が済まなかった。「悪い悪い。でも、桐島さんが間に合ったんだからよかったじゃん」「そうですよ! 僕が間に合ったからよかったですけど、下手したら絢乃さん、本当に危ないところだったんですからね!?」 彼が怒っているのは、わたしのことを本気で心配してくれていたからだ。だからわたしは叱られているのに嬉しかったし、自分の無謀な行動を猛省した。「……ごめんなさい」「でも、無事でよかった……。本当によかった」 彼は深いため息をつくと、ここが公衆の面前だということもお構いなしにわたしをギュッと抱きしめた。「ちょっ……、貢……?」 彼はわたしを抱きしめたまま震えていた。泣いてはいないようだったけれど、それだけでわたしへの心配がどれくらいのものだったかが伝わってきた。 わたしは彼の背中に手を回し、そっと背中をさすった。父の葬儀の日、泣けなかったわたしに彼がそうしてくれたように。「ごめんね、貢。心配かけちゃって、ホントにごめん。……でも、心配してくれてありがと。もっと他に方法はあったはずなのにね。わたし、これくらいの方法しか思いつかなくて」 路上で抱き合っていると、周りが何だかザワザワと騒がしくなってきた。「……とりあえず、クルマに乗って下さい。話はそれからです」「そう……だね」 これ以上のイチャイチャは人目が気になるので、わたしたちは彼のレクサスへと移動することにした。「じゃあ、あたしたちもこれで撤収しまーす♪ あとはお二人でどうぞ♪」「絢乃さん、オレたちこれで五十万円分の働きはしたよな?」

  • トップシークレット☆ ~お嬢さま会長は新米秘書に初恋をささげる~   大切な人の守り方 PAGE12

     何が起きたのか分からずパニックになっていたわたしを庇うように立ちはだかり、小坂さんにハイキックを一発お見舞いした。「ハイキック、初めて当たった……」 「…………!? な……っ」 一瞬で吹っ飛ばされた小坂さんは、この状況が吞み込めないらしかった。 わたしも呆然となっている場合じゃなかったと気を取り直し、強気な顔に戻った。「真弥さん、今の撮れた?」「はいは~い♪ もうバッチリ」 わたしが目配せすると、建物の陰からスマホを構えた真弥さんと、その後ろに控えていた内田さんが姿を現した。「アンタの裏アカ、あたしが乗っ取っちゃいました☆ 今ねぇ、この様子の一部始終が全国のアンタのファンに垂れ流されてんの。これでアンタ、俳優としても終わったねぇ。はい、ご愁傷さま」「小坂さん、貴方はこれまでにどれだけの女性を弄んで傷つけてきたんですか。女性だけじゃない。わたしの大切な人まで晒しものにした! 貴方、人の気持ちを何だと思ってるんですか! わたし、貴方のことを絶対に許しませんから!」「あんた、どうせ逆玉狙って絢乃さんとお近づきになりたかっただけでしょ? もうバレバレ。甘いんだよ、その考えが」 せせら笑うようにそう言って、真弥さんが腰を抜かしている小坂さんを見下ろした。「わたしは正式に、貴方を名誉毀(き)損(そん)で訴えます。顧問弁護士にはもう、訴訟を起こす準備を整えてもらってるので。ちなみに貴方、事務所をクビになってて後ろ盾はなくなったんですよね? というわけで、訴える相手は貴方個人です。覚悟しておいて」 わたしは次の一言で、彼に完全にトドメを刺した。「この件で、貴方は完全に社会から抹殺されるでしょうね。ご愁傷さま。女をなめるのもいい加減にして!」 この後パトカーが到着し、小坂さんは警察へ連行されていった。前もって内田さんが通報していたのだ。 こうしてイケメン俳優への反撃作戦は幕を下ろしたのだった。

  • トップシークレット☆ ~お嬢さま会長は新米秘書に初恋をささげる~   大切な人の守り方 PAGE11

    「わたしの親友が貴方のファンなんです。五月に豊洲で主演映画の舞台挨拶なさってたでしょう? 彼女、部活があったから行けなくて残念~って言ってました」 これも真赤なウソっぱちだ。里歩はその頃とっくに彼のファンを辞めていたので、行きたがるわけがないのだ。「へぇ、そうなんだ? 嬉しいなぁ」「豊洲っていえば、ちょうどあの日、わたしもあのショッピングモールにいたんですよ。彼氏と二人で。偶然ですねー」 わたしは彼が気をよくした手ごたえを得ながら、ちょっと強気にカマをかけてみた。「へ、へぇー……。すごい偶然だねぇ。っていうか君、彼氏いるんだ? もしかして、撮影の時に一緒にいたあの男?」 彼は平然を装っていたけれど、明らかに動揺していた。わたしはこんな言葉使わないけれど、里歩や真弥さんなら「ざまぁ」と言うところだろう。「ええ。八歳年上の二十六歳で、わたしの秘書をしてくれてます。お金持ちの御曹司っていうわけじゃないですけど、すごく優しくて頼りになるステキな人です。実はわたしたち、結婚も考えてて。でも彼は決して逆玉狙いなんかじゃなくて、わたしのことを本気で大事に想ってくれてる人なんですよ。わたしも彼のこと、すごく大切に想ってます」「へぇ…………。じゃあ、なんで君は今日、俺を誘ってくれたの? そんな挑発的なカッコして、コロンの匂いまでさせて。……もしかして、俺を誘惑しようとしてる? 彼氏から俺に乗りかえるつもりとか」 この人、どこまで自分大好きなんだろう? きっと今までも、こうやってどんなことも自分に都合のいいようにしか考えてこなかったんだろう。「まさか」 わたしは鼻で笑い、彼をどん底に突き落とす宣告をした。「貴方が、その大事な彼を貶めるようなことをしたから、反撃しに来たんです。貴方が裏アカまで作って、彼に嫌がらせをしてきたから。わたしが分からないとでも?」「……っ、このアマ……」「ちゃんと調べはついてるんですよ。だからわたし、逆にそのアカウントを利用しようって考えたんです。貴方の本性を、ファンのみなさんにさらけ出すために。こうやって誘い出せば、プレイボーイの貴方のことだから食いついてくれるだろうと思って。でもまさか、こんなにホイホイ誘いに乗ってくるなんて思わなかった!」 ここまで上手く引っかかってくれるなんて思っていなかったので、わたしは笑いが止まらなくな

  • トップシークレット☆ ~お嬢さま会長は新米秘書に初恋をささげる~   大切な人の守り方 PAGE10

     ――わたしと〈U&Hリサーチ〉の二人で決めた作戦は、小坂リョウジさんの裏アカウントにDMを送り、真弥さんがそのアカウントをハッキング。彼をウソの誘い文句でおびき寄せて二人で会っているところを真弥さんに乗っ取った彼の裏アカでライブ配信してもらい、彼が本性を現したところでそのことを彼に暴露するというもの。よくTVのバラエティーでやっているドッキリ企画に近いかもしれない。 万が一のことを考えて、わたしは内田さんと真弥さんと連絡先と名刺を交換した。貢の携帯番号も教え、わたしの身に危険が迫った時には最終手段として彼に知らせてほしい、と内田さんにお願いした。 この作戦については話していないけど、調査については貢にも伝えてあった。調査料金として五十万円を支払ったことには、「そんな大金を払ったんですか!? 絢乃さん、金銭感覚バグってるでしょう絶対!」と呆れられた。わたし自身もそう思うけれど、彼を守るためなら一億円出したっていい。彼の存在は、決してお金には代えられないから。 顧問弁護士である唯ちゃんのお父さまにも、小坂さんを訴える準備をして頂いた。真弥さんにもらった調査内容はその証拠としてお預けした。ただ、正規ではない手段で手に入れた情報なので証拠能力がどうなのかは分からないけれど……。 ――そして、作戦決行の日が来た。 その日は土曜日で、貢には前もって「ちょっと用事があるから」とデートの予定を外してもらった。 内田さんの事務所を訪れてから決行日までの数日間、わたしの様子がおかしかったことは彼も気づいていたかもしれない。もしかしたら彼は、わたしの浮気を疑っていたかもしれないけれど、その心配なら皆無だ。内田さんには真弥さんという可愛い恋人がいるわけだし、わたしには貢しかいないのだ。 SNSでの誹謗中傷は、もうこのネタが飽きられていたのかパッタリ止んだ。その代わり、真弥さんが調べてくれた小坂さんのある情報が、Xで拡散されていった。彼はお付き合いしていた女性と破局するたびに、リベンジポルノを仕掛けていたらしいのだ。――これもまた、三人で練った作戦の一部だった。 普段よりちょっと露出度高めの服装をして、わたしは新宿駅前でターゲットを待ち構えた。少し離れた場所では、自撮りするフリをしてアウトカメラでスマホを構えた真弥さんと内田さんも待機していた。「――CM撮影の時以来かな

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